Boost ライブラリの中でも Boost.MPL は割と食わず嫌いというかなんとなく敬遠している人も多いライブラリのような気がする。MPL = Meta Programming Library ということで「メタプログラミング?黒魔術?」みたいな受け取り方をされているんじゃないかというか、実際には
Boostは一般人が闇に触れずとも闇の力を使える様にするアーティファクトですが、ちょっと使った程度の事では闇に落ちたりしませんから安心してBoostするといいです・x・ (ックックック ##bot
— 伊藤 兎 (実際にんじん)さん (@USAGI_WRP) 2月 13, 2012
という言にふさわしい、コンパイルタイムメタプログラミングを Sequence、Iterator、Algorithm といったランタイム(実行時:コンパイルタイムの対義語として)の語彙で取り扱えるようにする一般人のためのライブラリである。typename ::type 乱舞になりがちなところと、代入や状態の変更ができず関数型言語的に記述する必要があるところだけ気をつければ難しくない。のだがちょっと自分の中で整理しきれていなかったのが Metafunction 関係である。前回 MPL 用再帰的 equal を書く中で大分整理できたのでまとめてみる。
MPL の Metafunction 関係について包含図を書いてみると以下のようになる。
MPL Metafunctions
Metafunction がランタイム世界での通常の関数にあたる。適用が ::type しないといけないところがちょっと面倒なところだ。Metafunction 以外の Lambda Expression は高階関数にあたるところであり Metafunction Class と Placeholder Expression からなる。Metafunction Class は関数オブジェクト(Functor)にあたると思えばよい。operator() の代わりにメンバテンプレート apply があると考えても良いだろう。さて、ランタイムにおける世界でも毎回毎回関数オブジェクトを書くのは面倒ということで Boost.Lambda や C++11 でのラムダ式がある。これの MPL 版にあたるのが Placeholder Expression だ。良く分からない英語が書いてあるが、placeholder(boost::mpl::_1 等)自身や、テンプレートパラメータのどこかに placeholder ないし Placeholder Expression を含むテンプレートクラスの特殊化(specialization)である。
_1 plus<_, int_<2> > if_< less<_1, int_<7> >, plus<_1,_2>, _1 >
最後が bind expression である。これは単に bind の特殊化だ。bind はメンバテンプレート apply を持つため必ず Metafunction Class となるが、必ずしも Placeholder Expression とはならない。placeholder なしで bind することも可能だからだ。そのため Placeholder Expression から一部はみ出している。
bind< times<>, int_<2>, int_<2> >
さて、なんとなく Metafunction 族については分かっただろうか。自分もここまでは大体分かっていたのだがそれに作用するもの、具体的に主要なものをあげると apply, lambda, apply_wrap, protect, quote 辺りについて整理ができていなかったので以下に並べてみる。以下の図で青色が引数に取る対象、桃色がある場合はその部分が実際に変換される対象である。
MPL apply
apply は Lambda Expression を引数に取り、その Lambda Expression を適用する(呼び出す)。実際には lambda を適用した後で apply_wrap を呼び出す。では、その lambda と apply_wrap がどうなっているかというと、
MPL lambda
lambda は任意の型を引数に取るが、その内 Placeholder Expression を Metafunction Class に変換する。他はそのままである。
MPL apply_wrap
そして、apply_wrap は Metafunction Class の呼び出しである。実際には ::apply<...> と同等だ。なので、apply は lambda により全て Metafunction Class に変換した後、apply_wrap で呼び出すことになる。
MPL protect
protect は Metafunction Class を受け取るが bind expression しか変換しない。リファレンスマニュアルの例だが以下のように bind 時の placeholder の置き換えを抑止する。protect なしだと入れ子の bind 中の _1, _2 まで置き換えられているが、protect をかけると置き換えされない。
struct f { template< typename T1, typename T2 > struct apply { typedef T2 type; }; }; typedef bind< quote3<if_>,_1,_2,bind<f,_1,_2> > b1; typedef bind< quote3<if_>,_1,_2,protect< bind<f,_1,_2> > > b2; typedef apply_wrap2< b1,false_,char >::type r1; typedef apply_wrap2< b2,false_,char >::type r2; BOOST_MPL_ASSERT(( is_same<r1,char> )); BOOST_MPL_ASSERT(( is_same<r2,protect< bind<f,_1,_2> > > ));
MPL quote
最後に上の protect の例でも使われていた quote である。これは Metafunction を Metafunction Class に変換する。引数の数を指定する必要があり、その際デフォルトパラメータの部分も数えなければならないし、変換された Metafunction Class には全引数を渡してやらなくてはならない。bind 等と併用するくらいなら Placeholder Expression + lambda の方が楽かもしれない。
まとめ
どうだろうか。少しでも理解の助けになっただろうか?現実的には以下のルールに従っていれば大体問題ないと思われる。
- 高階関数を受け取る場合は Lambda Expression を受け取ることにする
- 適用(呼び出し)する場合は apply を使う
- 高階関数として「そのまま」渡したい場合は lambda をかける(protect をかけた状態になる。実際 lambda は Lambda Expression に対しては protect<bind<...> > になる)
- 高階関数として Metafunction を渡したい場合は quote をかける
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